第1章 ドラゴンの食事

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 俺は窓に駆け寄って一気に全開にする。強烈な風が教室の中に流れ込んだ。何人かのプリントはどっかに言ってしまっただろう。だが、そんなことはどうでもよかった。俺は割れてしまった空に釘付けになっていた。空の割れ目からは次々と何かが降りてきていたからだ。  俺は目を凝らした。人ではない。もっと体は流動的で体長も人間よりも大きそうだ。こっちに来る奴がいる。なんだ?トカゲ・・・?いや、これは、もしかして、いやもしかしなくても。  ・・・ドラゴンだ。 「嘘だろ・・・」  正面しか見えないが、黒い、黒くて大きなドラゴンだった。羽ばたき一回ごとにドラゴンの体が大きく浮かび上がると同時に、その下にある建物が破壊されていく。風圧で建物を壊すなんて。スカイツリーも真ん中でぽっきり折れている。  巨大なドラゴンはその体躯にふさわしい緩慢さを見せ、ゆったり学校に近づいてくる。いや、動き自体はゆっくりなのに、移動スピードは速いな。するとドラゴンは口を大きく開き、その口によく分からない黒い塊を集中させる。俺はとっさに窓の下に隠れた。 そこからは地獄だった。吹き飛ばされた校舎の瓦礫から這い出して見た光景は忘れないだろう。人は人として生きるためにある程度、平和が必要だった。しかし、今、人間は、虫以下だった。地べたを這いずり回る蚊や蝿。それ以下だった。  世界は食物連鎖の頂点に立っていた人間より強いものたちを受け入れた。ドラゴン、エルフ、オーク、ヴァンパイア・・・その他、空想上の存在とされてきた生き物たち。人間は瞬く間に狩り尽くされた。東京はもはや、どこに行っても血の匂いがするようになった。  世界が受け入れたのは生き物だけではなかった。これまで普通だった景色は全て一変した。コンクリートで固められたビル。大きなサッカースタジアム。張り巡らされた高速道路。あの頃の名残をここで見つけることはできないだろう。それらは全て巨大な木、生き物を喰らう動く岩石でできた山、地上に浮かぶ雲の川など、人工的でないものに変化した。  ここ新宿も例外ではない。高層ビルはすでに巨大な木に置き換わり、ビルがひしめき合うように、木々がひしめき合っている。新宿は巨大な森になっていた。いや、新宿だけが森化したのかどうかは分からない。俺はまだ、全てを見たわけじゃない。もしかしたら日本全国がそのように変わってしまったのかもしれない。
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