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ないがしろにされた優姫は唇を尖らせて、刀の手入れを始めてしまった。涼香は嬉しそうに両手を合わせる。
「現状わかってるのは、この本が魔法を発動させるために必要ってことですね」
「ああ、そうだな。そして、俺の本は青、涼香の本は白。これは使える魔法のイメージ色って感じかな」
「そうですね、仁さんは水魔法系で青、私は治癒系ですかね?白い魔道書です」
俺はもっともらしくウンウンと頷くと優姫の方を向いた。
「優姫、お前のは何色だ?」
「ボク?ボクのは赤だよ?」
「それで使えるのは、なんの魔法だっけ?」
「ん?どういう魔法なのか?ボクにはよくわからないなぁ」
「ふむ、じゃあ使ってみてくれ」
「やだよー」
「なぜに」
「仁に見せるのなんてもったいないもん」
「なんでだよ・・・」
俺、何か嫌われることでもしただろうか?そこですっと涼香を見る。涼香は心得たとばかりに俺を援護する。
「でも、赤からイメージするのは、火や炎、マグマといったものでしょうか」
「火かー。多分違うなー」
「違いますか。優姫さん、私もみてみたいです。やってみてくださいな」
優姫は腰に手を当てていかにも悩んでいるアピールをする。
「しょうがないな、涼香ちゃんには特別だぞ?!おい、仁。ありがたく思え」
ビシッと俺を指さしてくる。
「ははー」
俺は心のこもらない礼を優姫に送る。だが、優姫はそれで満足したようだ。ふふん。さっさと魔法を使いやがれ。優姫はいそいそとスカートのポケットから赤い魔道書を取り出すと最初のページを開く。魔道書に少しばかり光が灯った段階で優姫は唱えた。
「力強化(パワーアップ)」
すうっと優姫の腕がほのかに赤い光に包まれた。
「これで、何が起きるんだ?」
俺がそう聞くと優姫はとびきりの笑顔を浮かべて、さっき食べた実がなっている木の幹へ歩き出した。幹の下についた優姫は相撲取りのように両手を木の幹につくと、右手をすっと引いた。
ズドォン!
太く重量感のある木の幹が優姫の一撃に大きく揺れた。次の瞬間、俺や涼香の頭上には、なっていた実がいくつか落ちてきた。幸い涼香の真上には降ってこなかったらしい。俺は、ダメだった。
「ぐはぁ!」
「仁ー!いいねー!」
優姫の叫び声が聞こえる。覚えてやがれ・・・この野郎。
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