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身体を引き裂かれ、膝から崩れ落ちる魔王。
その者は口から血を滴らせながら、喉から絞り出すように憎しみに満ちた声をこぼすのだった。
「げ、解せぬ。これが人の力か……」
ぼくは颯爽と剣先を突きつける。
「仲間を道具としか思わぬお前に人間の限界がわかるものか! これが人間の可能性だ!」
「可能性……希望か……」
魔王の身体が霧状の闇に包まれていく。
「人間どもよ。覚えておくが良い。我は人の心に巣食う闇。貴様らが邪な欲を心に飼い続ける限り、我は何度でも蘇るのだ! はっはっはっは!」
世界を絶望の縁に沈めた強敵の身体が粒子状に分解していく。やがてその実体は跡形もなく消失した。
辺りがしんと静まり返った後、友人ドラグは剣を鞘に収めながら、
「終わったな、ツバサ」噛み締めるように呟いた。
「そうだね……」ぼくが含ませながら頷くと、
達成感を吹き飛ばすかのような間抜けなファンファーレの音がどこからか聞こえてきた。
レベルアップの音だ。
同時に、大量の金と強力な武器がぼくと友人それぞれの仮想道具袋に振り込まれた。
「魔王討伐の称号もゲットだ!」
間抜けなファンファーレが鳴り終わると、今度は大げさで感動的なエンディングテーマが流れ出した。
ぼくは清々しく笑う友人を見つめ、
「やったね」とため息混じりに言った。
「あぁ、エンディングだ。次は隠しダンジョンだな。まだまだやり込み要素はあるぞ!」
「でも……」
無意識に口ごもっていた。
清々しい達成感に包まれる彼とは真逆で、ぼくはどうも浮かない顔をしていたと思う。要するに、ゲームの続きをプレイすることに、いまいち乗り気になれなかったのだ。
だがそこはさすがの友人だ。
ぼくが表情を曇らせたのを敏感に察して、気の利いた言葉をかけてきた。
「とりあえず今日のとこはログアウトするか」
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