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なんて期待したところで現実世界というやつは至極無慈悲なものだ。
仮想現実に入り込めるぐらいのテクノロジーの進歩となると、残念ながらまだまだ未来の話らしい。
━━チクタクチクタク。
時計を見る。針は夜の十一時を指していた。
腹の虫がぐうぐうと食べ物を要求している。こんなに空腹なのも、訳あって夕食を抜いたからだ。
ぼくは亡者のように虚ろな目で自室の中を見回した。なんでもいい。何か食べられそうな物でも部屋に落ちてないだろうか。
しかしそんな都合よく食べ物が転がっているわけがない。もし転がっていたとしたら、それは衛生的に問題があるしろものだ。
「ぐう……」
「はぁ……」
腹の虫に応えるように、ため息を漏らす。だが、嘆いても仕方がない。
よし、こうなったら。
ぼくは一度立ち上がり、部屋の扉へ向かった。部屋を出て一階の台所へ行けば、冷蔵庫という名の宝物庫がある。
「そこまで辿り着けば、あるいは」
しかし、とぼくは立ち止まった。
ドアノブを掴もうとした手をおろす。
宝物庫へ辿り着くまでに、母親にばったりと出くわしてしまうかもしれない。
今更、顔なんて合わせたくない。
特に今日は日が悪いのだ。
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