わすれもの

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 彼の葬儀から少し経ったある日。  教室の後ろでは人だかりができていました。みんなが指差す先にはクラスの集合写真があります。  しかしその顔は……。 「誰だろうね、こんなヒドイことしたの……」  真っ黒に塗り潰されていました。  全員の顔が、黒のサインペンで乱暴に塗り潰されていて……しかしその中でよく見ると、一人だけ無事な顔があったのです。  黒く塗り潰された写真の中に、水原君の笑顔だけがありました。  サッと全身の血が一気に下がって顔も指先も冷たくなり、私は呆然と震えたまま、しばらくの間写真の前から動けませんでした。  今でもあの教室での彼の笑顔を思い出す度、ざらりと冷たいものが私の心を撫でていくのです。
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