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バシャッと熱いお湯を頭からかぶる
目の前の鏡には見慣れた自分の顔
ブサイクとまではいかない(と思いたい)けれどイケメンというわけでもない
どこまでも平凡な自分の顔
腕には小さな赤い痕が2つ、東雲さんがつけたものだ
わき腹には長く赤い痕が1つ、謎の人物につけられた傷だ
「…くそっ」
暗闇だったからとはいえ、顔も見ていなければ犯人の特定なんてできはしない
唯一見たものは犯人の服装だが、そんなもの後で燃やすなり、処分するなりしてしまえば証拠は簡単に隠滅できる
(結局俺には何もできないのか…)
警察に調べてもらえればとも思うが、傷も治っている今、まともに取り扱ってくれることはないだろう
しばらく帰る道を変えることを考えながら思考のどこかは、今日の朝のことを考えていた
(東雲さんは吸血鬼…だったんだよな…)
見た目はどう見たって人間だった
けれど口を開けた瞬間、一瞬しか見えなかったが、確かに犬歯が異様に長く鋭かった気がする
まさか自分の身にこんなファンタジーな展開が起こるなんて誰にも、もちろん自分でも予想できなかっただろう
驚きはしたが不思議と怯えや恐怖というものはなかった
たぶん東雲さんがあまりにも『人間らしかった』からだろう
倒れた人の心配をしたり、気を利かせてお茶を入れたり
よっぽど人間っぽいと思った
「あーもうだめだ、余計なこと考えないでいこう。」
この際、東雲さんが実は吸血鬼だとかはいったん置いておこう
偶然会ったりしたら気にせず挨拶すればいいだけだ
そうすればいいだけなんだ
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