突然の危機

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キュッとバッシュが体育館の床を滑る音が耳に入る 相手のディフェンダーをすり抜けてゴール手前まで行くと、上に構えたボールを投げる ボールは宙に曲線の軌道を描きながらリングを通過しゴールのネットを揺らした ほとんど同時に甲高い笛の音が辺りに鳴り響く。前半戦が終了した合図だ ベンチに戻って座りこむが、久しぶりだからかいつもより息切れが激しい 「大丈夫か?焦らなくていいぞ。」 二条先輩から投げられたペットボトルを片手で受け取る 冷たいスポーツドリンクを少しづつ飲み込むと、熱が瞬く間に引いていく 「二条先輩すみません、残り5分の時にシュートミスして…。」 「大丈夫、今はリードを取れてる。後半戦は体力が落ちた中での戦いになるから復帰したての夏樹にはきついかもしれないけど、出来るだけのサポートはするからな。」 「はい。」 「問題は向こうのチームが夏樹をマークし始めてるってことだ。最初に比べて明らかに夏樹の近くに待機しているやつが増えてる。ここからは派手に勝負をかけないほうがいいかもしれない。」 確かに言われた通り最初に比べて、俺にパスが回ってきたときに相手のチームから追い付いてくる人数が多くなっていた 「スリーポイントシュート、狙いましょうか?」 「出来るか?」 「精度は近くまで寄るのには落ちますけど…一応練習しているんで。」 「なら、夏樹はスリーポイント狙いで。前には違う奴を回そう。皆それでいいか!」 おう!やら、はい!やら威勢のいい声が飛び交う 久しぶりだこの空気。チームとして1つになり強大な敵と戦うという、まるでRPGの勇者にでもなったようなこの気分 知らず知らずのうちに笑みがこぼれていた 「ん?どうした?なんかいいことでもあったか?」 「あ、いえ…ただ、楽しいなって…。」 「お前…まだ息切れしながらそれ言えるお前が凄いぞ。でもまあ、後半戦お前のシュートに期待してるからな。」 「はい!」 負けられない、絶対に 今は見つけられないが、東雲さんもきっとどこかから俺を見ているんだろう 試合が始まる前、スマホに来ている旨を知らせるメールが届いていた 東雲さんの前で格好悪いところなんか見せられない 改めて決意を固め、俺は勢いよくベンチから立ち上がった
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