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「先輩…?何を…。」
「俺たちのベンチから見て左側の観覧席にいた金髪の男性。あれは誰だ?」
「何言って…。」
「試合が終わった後、あの人に向かってピースしていただろ、それも満面の笑みで。」
見られていたのだ、あの瞬間を
実際俺が東雲さんに向けて何かをしたのは、あの時だけだった
俺と東雲さんが親しいと思うならあの瞬間しかない
「別に…あの人とは何の関係もありませんよ。ただ知り合いってだけで…。」
「家族でもないただの知り合いに、お前は満面の笑みを向けるのか?少なくとも見に来ていた友達には一切向けていなかったみたいだが。」
そんなところまで見ていたのか、と恐怖心が湧き上がる
確かにあの試合には、家族や朱音や浩介も来ていた。けれど、俺は何よりも東雲さんを探すことを優先して、家族や友達がどこに来ているかは見つかられなかった
先輩は俺が誰に笑いかけていたのか、全て見ていたのだ。それも、俺の家族や友達がどこにいるかを把握した状態で
「けれど、本当にあの人と俺は何の関係もありません…!」
「関係って、こういうことか?」
するりとシャツの裾から手が差し込まれる。直に背筋をなぞられる感覚に鳥肌が立つ
「どうして先輩は、そんなことを聞くんですか…。」
「そうだな…お前が好みだからって言ったら納得するか?」
俺は数時間前の自分の考えを呪った。藤井先輩の言っていたことは本当だったのだ
「納得するわけ…ないじゃないですか。」
「大丈夫だよ。身体から始まる恋もあるし、案外イイかもしれないぜ?」
この人はもはや俺の話を聞く気がないのだと思った、それと同時に怒りがふつふつと沸きあがる。このまま流されるわけにはいかない
こんなにも身体は拒否反応を示しているのだから、それに従うまでだ
東雲さん以外の人に触れられるなんて、受け入れるものか
「やめて下さい!」
思いっきり力を込めて先輩の身体を突き飛ばす
不意を突かれたのか、先輩はよろけて後ろのテーブルにぶつかった
「俺は…先輩のことはそういう目では見れません。今日のことは誰にも言いません。その代わり、もう2度と俺にこういうことしようとしないで下さい。」
先輩は何も言わず、ただ黙ってうつむいている
「お疲れさまでした。」
俺はロッカーから荷物を引っ張り出し、逃げるように控え室を後にした
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