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「じゃ、あたしこっちだから。じゃーねー。」
「おう、また明日な。」
「ラーメン、絶対に忘れないでね!」
「はいはい、分かってるよ。」
朱音の後ろ姿を見送りながら、俺も家への道を歩く
時刻は午後9時を回ったところで辺りは真っ暗だった
よくある夜道で襲われたとかいうニュースは大体被害者が女性で容疑者が男性だ
力の差も相まって、夜道で襲われるという危険性は女性のほうが圧倒的に高いのだろう
自分なんかは襲われないだろうと高をくくっていた
万が一襲われたとしても、男だし何とかなるだろうと曖昧で楽観的な思考とともに…
「…ぐっ…!?」
突然わき腹に感じた鋭い痛み
とっさに触ると、手のひらが生暖かくぬるりとしたものに触れた
暗がりで色は見えないが本能的に血だと思った
わき腹に感じた痛み、そこに手が触れるとべっとりとつくほどの量の血
その2つの材料だけで、自分に何が起こったかなど推測可能だ
自分は刺されたのだ、何者かに、それも真っ暗な路上で
ドサッ!
俺は勢いよく地面に転がった
地面に激突した腕が痛いだとか、コンクリートの地面が冷たいだとかそんなことは考えていられなかった
ただ、突然のことに驚いて放心するしかなかった
驚いた状態で固まる俺の視界の端を黒いものが横切った
必死にそちらに視線を向けると、かろうじて真っ黒な服が見えた
黒のパーカーに黒のズボン、後ろ姿だけでは男女の判別なんてつかない
俺を刺した犯人はそのまま細い路地へと消えていった
その場には俺1人が残された
運悪く、俺が刺された場所は一番近い繁華街からでも細い路地を何本か入ったところにある入り組んだ場所で、当然人通りは日中でもまばらだ
ましてや人通りが完全に無くなったわけではないだろうが、ただでさえ人通りが少ないのに、この時間帯で増えるわけがない
(うわ…やばい…視界が…)
徐々に目の前がぼやけていく
もうすぐ死んでしまうかもしれないというのに、なぜか不思議と冷静でいられた
(あー…死ぬって、こんな感じ…なの…か…な…)
ぼーっとそんなことを考えていると、次第に瞼が下りてきて、それはやがて完全に閉じた
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