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第1章 かくも優雅な午後
マシュマロをもぐもぐと頬張りながら窓の外で蟻のように蠢く人間を見下ろすのが僕の趣味だった。ここは地上十二階。人がゴミのようだとはまさにこのことではないか。
「人間とは……かくも小さきものか」
ふふふと笑う僕は、さながら城の最奥に潜む魔王。あるいは最強の勇者。あるいは――。
「そうは言うけど、あんたの小ささに勝る人間なんてそういないわよ、リドル」
後ろから余計な茶々が入った。僕はチッと舌打ちして振り返りもせず答える。
「そう言うお前は無駄に成長しすぎだ。縦にも横にもにょきにょきにょきにょき鬱陶しい」
「横には伸びてないっ!」
空を切る音と共にティーカップが飛んできた。とんだ乱暴女だ。僕はきゅっと眉根を寄せながら、力を籠めて呟く。
「“散れ”」
その言葉と共に、空中のティーカップは木端微塵に砕けて床へと落ちた。まるで物理法則を無視したその動きに驚く者はこの場にいない。
アーニャは大仰に溜息をついて、「掃除が面倒臭いのに、ムカついてついやっちゃうのよね」とスカートを翻らせる。
「御託はいいからさっさと掃除しろ。お前仮にもメイドだろう」
「仮には余計よ」
そう言ってアーニャは部屋の外に出て行った。恐らく掃除用具を取りに行ったのだろう。
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