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「……るさい……!」
唸るような声で、僕は吠えた。
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅いっ! 何も知らない癖に、たわ言ばかりほざくな!」
僕は目を瞑っていたが、それは決して泣きそうだったからではない。こんな輩を視界に入れて不愉快になるのが嫌だった。ただ、それだけなのだ。
「……今日のところはお引き取り下さい」
アーニャが有無を言わせぬ口調でそう言って、町人と鎧の男を玄関口まで追いやる。
なんやかんやと文句や罵り言葉を口にしながらも、この寒空の下に追い出されてしまったら為す術も無い。
そうやってはた迷惑な来訪者たちはすごすごと立ち去って行った。
このシドという男を除いて。
「俺は帰らん……帰らんぞ!」
男はドアの縁に必死でかじりつき、一人きりになっても尚抵抗している。
「……いい加減隙間風が寒いんですけど、出て行ってもらえます?」
「嫌だと言っている!」
シドはそう言って、アーニャの隙をついて屋敷の中に再び飛び込むと、僕の元まで凄まじいスピードで駆け寄ってきた。鎧が擦れる金属音がひどく耳障りだ。
「頼む!」
ガシャン、と一際大きな音がしたので視線をそちらにやった。僕はそのまま目を剥いて暫く動けない。これは恐らく、土下座というやつだ。
シドは床に手を付き、膝を付き、頭を垂れていた。
「非礼は詫びる! この町の人間が、あんたは人と会わないって言ってたから、こうするしか無いと思ったんだ。頼む! コトラの力で、成し遂げて欲しいことがある!」
頼む。頼む。
何度もそう言ってシドは額を地面に擦り付ける。アーニャが珍しく困った顔をして慌てていた。
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