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17、8くらいの少女が格子の隙間から空を見上げた。
今は昼見世の時間。
昼見世は夜ほど忙しくなく、格子の前を通る男も少ない。
今日は快晴。
心が苦しくなるくらいの真空が少女の心を捉えた。
少女の儚そうな白い手が持つ煙管からゆるく煙が立つ。
煙はいとも簡単に格子を抜けると、空へと上がる。
「わっちも煙になりたいでありんす。」
それを聞いた姉女郎が鼻で笑った。
「こんな所にずっといるくらいなら、火事に巻き込まれて煙になった方がずっと幸せでありんしょう。」
「姉さんったら意地の悪い。そしたらわっちは仏様になっているではありんせんか。」
「此処で死ぬまで働かされるよりも、その方が良いではありんせんか。」とは他の姉女郎。
少女はむくれて煙管を吸った。ゆるい紫煙が空へ空へと上がる。
ついでに道行く男達に流し目を送るのも忘れない。
だが上手く引っかからない。
少女はつい先日までは引き込みの振袖新造であったが、ついこの間、水揚げして部屋持ち女郎となったのだ。
引き込みであった故、きっちりと仕込まれたが、経験では姉女郎達にはてんで敵わない。
それは仕方ないと思っている。教養と器量が違うのでそのうち追い越すだろう。
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