真空

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それから幾年かが過ぎて、少女は花魁となった。 禿一人と新造一人を抱えて、一晩で金二両を取る、呼び出しという花魁だ。 廓内では五番目の売り上げを上げていた。 もう外に出たいなどという夢はとうの昔に潰えていた。 逃げ出そうとして、折檻を受ける姉達を幾度となく見てきた。逃げるそぶりを見せれば、酷い目に遭わされる。恐怖であった。 身投げした姉もいた。生きるのが辛くなったのだろう。 死ぬのだけは嫌だった。生きたかった。生きていることだけが、少女にとっての希望だった。 (死にたくはありんせん。) 母や本当の姉達のように、冷たくなるのは嫌だった。 この綺麗な顔のお陰で生きてこれた。 折角手に入れることが出来た生きる機会を、潰すことだけは理解出来なかった。 確かに苦しい。病気は怖いし、妊娠も怖い。 道具のように生きることは辛くて苦しい。 けれども、死ぬことよりは幾分かマシのような気がした。 『あんたは花魁になるのが決まっていたから、そんな風に思えるのではありんせんか。わっちらのように、下郎に等しい男等に抱かれる女の気持ちなど、あんたには分かりんせん。』 身投げした姉が、最後に口にした言葉だった。 確かに少女の客は小金持ちより上の層が多かった。それに花魁になるのも早かったから、同衾する客を選べるようになるのも早かった。 花魁は同衾する客を選ぶ権利を持つ。しかし、あまり袖にばかりしていると仕事にならないので実際は大して選べはしないが。
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