真空

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死んだ姉には好いたお人がいたという。相手は姉を足抜けさせようとして、簀巻きにされて川に流されたと聞いた。 姉は折檻を受け、相手の死を聞いておかしくなった。 心が病んでいった。 それは誰も止めることは叶わなかった。 可哀想だが、此処では良くある事だとされていた。 そして姉は二階から飛び降りて死んだ。大した高さもないから、受け身を取れば死なないはずだったが、それもしなかったのだろう。首の骨を折って死んだ。 死ぬまで働かされるより死んだ方がマシだと、その姉が言っていたのはいつの事であっただろう。 その姉は面倒見が良く、皆に好かれていた。死体を見つけた禿の悲鳴が響き渡ったのは、夜見世の始まる間近だった。 楼主や遣り手の怒号が響き渡って暫くして、騒ぎは落ち着いた。 そして喪に服することもなく、時間にになれば客がやってきた。 「姉様は真空に帰りんした。わっちは此処で生きんす。」 一人呟いて、窓から見える真空に手を合わせた。
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