第4章 逃げてきた男

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 数日後、なぜか社長から呼び出しの電話が鳴ると、俺はいつも間にか連中に囲われて彼女の愛人として飼われる話になった。彼女が安らかに眠るために通ってくる夜は、特に会話もなく彼女が満足するまで何度も何度も奉仕する役目を与えられた。  身を削って睡眠削って、周りに嘘までついて友達も作らないで。社長を軽蔑しながらも言い成りになって、仕事よりも彼女中心の人生に染まっていった……。  あの時、やめることだって出来たはずなのに。俺は何を求めたのか、自分でもよくわからない。  彼女の匂いも体温もなくてはならない刺激となっていて、俺自身が彼女の身体によって満たされなければ眠れなくなってしまっていた。朝になれば彼女よりも早く目覚めてシャワーを浴びて服を着て……。  彼女が目覚めると朝食を作って食べさせて送り出した。なぜ、そうまでして彼女の奴隷のような役目を演じ続けていたのか本当にわからないんだ。  結婚式には俺だけ呼んでもらえなかった。  他の社員は全員参加なのに、社長は俺を許してはくれなかった……。そりゃそうだ。妻となる女の愛人が式に来るなんて気味が悪い。  これをきっかけに周囲にも気付かれ始めた。
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