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薔薇ヶ咲 美彦。一年A組。一年生でありながら先輩たちに喧嘩を売っては、百戦錬磨を誇る怪童である。彼の歩いた後には、喧嘩相手の血が、まるで薔薇のように散っていることから、ついたあだ名が「血吹雪の薔薇ヶ咲」
授業をまともに受けないため、校舎内で見かけることはほとんどない。どこぞで悪逆と放蕩の限りを尽くしているだろうと噂されているが、学力テストでは各教科の一位を総舐めにしているので、教師たちも強気に出られずにいる。
スミレは有り難いことにE組のため、彼と接点を持たずにいられたが、一度だけ遠目に薔薇ヶ咲を見たことがある。生きている世界が違うと他人に思わせるほどの圧倒的な美しさに、太陽を見ているかのような眩しさで目を細めたものだ。きっと彼のように美しければ、人生になんの不自由なく、愉快愉快と笑っているだけで長寿をまっとう出来そうだ。恐れと共に憧憬を募らせたが、孤高の一匹狼とは、それ以外で接点を持つことはなかった。
そんな彼が今、どうして自分を見下ろしているのか。スミレはパニックを起こしながらも、紅いルビーのように艶めかしい彼のピンヒールに釘付けになった。
「そ、それ履いて、そこ立ってるの、危ないですよ!」
「危なくねぇよ。宝塚の大階段の幅は二十三センチ。それと比べたら、大丈夫だろ?」
「お、大階段……? 宝塚……?」
「ここ飛び降りるのかよ、ブス?」
「え、え、え」
「見た目的にはドン臭そうで根暗そう。靴の下にある遺書のところに、『クラスのみなさんへ』て書いてあるから、おそらく死ぬ理由はクラスの虐めだな。まぁ五階だから、ここから落ちた方がスパッと死ねる。いい判断だ」
「いや、あの、」
「下に誰もいないの確認してから飛び降りろよ、ブス」
「ちが、くて、あの、」
「ほら、早くしろよ、ブス」
「あの、」
「ほら、どうしたブス」
「だから、」
「なぁ、ブス」
「ブ、ブ、ブ、……ブスじゃない~~~!!!!」
スミレは怒りが頂点に達するや雄叫びを上げ、大粒の泪を流しながら地団太を踏んだ。
「ブスブス云わないで! 私はブスじゃない、です! 私にはスミレって、おばあちゃんが付けてくれた綺麗な名前があるんです! ブスって呼ぶ方がブスなんですからね!」
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