スミレの騎士

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「おぉ、ブスが怒った」 「だから、ブスじゃありません! そんで私は死にません! こうして遺書置いて、今から失踪する気なんです! 私のことブスって、雑草って云ってきたクラスの子たちを、後悔させるんです! 邪魔しないでください!」  少年はフェンスの内側に不細工に膨らんだリュックサックを見つけ、納得したように小さく頷いた。 「でも、それ無理だろ?」 「へ?」 「お前のことブスだって虐めてくるクラスメイトが、お前が遺書残して行方不明になっても、どうせ三日で忘れる。そんで一年後にはお前のことなんて記憶から消えて、まるで最初からいなかったことになる……」 「うぅ……」 「知ってるか? 一年前に、ここで女子生徒が容姿の虐めを苦に自殺したんだよ。みんなそいつのこと、最初からいなかったみたいに、普通に生活してる。だから最初、お前を見つけた時にその幽霊かと思ったよ」 「や、止めてください! 私、幽霊とか無理なんです!」  幽霊の話をされた直後に、スミレの耳元で少女の笑い声が聴こえ、花の甘い香りが漂った。スミレが幽霊におののきフェンスを掴むと、薔薇ヶ咲はこちらを小馬鹿にしたように笑い、後方に向かって一回転して着地した。足首がキュッとうなり、カツンッとこぎみよい靴音が響き渡る。彼はフェンスの向こう側にいるスミレに向かい、右手を差し出した。 「スミレ。お前がどうしてもそいつらに復讐をしたいっていうなら、俺が手を貸してやろう」 「え、……どうして?」 「ブスじゃないんだろう? 否定の心意気を持った奴が、俺は嫌いじゃない」 「でも、喧嘩とか無理です……私、運動音痴だし……」 「誰がお前みたいなナヨナヨした奴に、喧嘩売れなんていうかよ! それ以外で、あいつらに復讐する方法がある。どうする? 俺の手を取れば、協力してやる。けど、血反吐まみれになることは覚悟しな……!」
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