スミレの騎士

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 絵画の世界から飛び出してきたような完璧な部屋には、人影が四つ。  一人は中央の安楽椅子に腰かける男。「容姿端麗」という言葉を擬人化するならば、まさにこの男こそが相応しいだろう。ドアが開いてこちらに声を掛けてきたのは、この美青年である。蜂蜜色の髪に、優しげな熊の毛色の瞳。百華高等学校では、学年ごとに腕に紺色の線が増えていく。彼の腕は三本、つまり三年生となる。足を組んでいる彼の足は、白いピンヒールを履いている。  彼の背後には、小麦色の髪をした女生徒が細くしなやかな足を交差させ立っている。大きなビビットピンクのリボンで、ウェーブの掛かった、腰まである髪をまとめている。小生意気そうな笑みが口元を飾る女生徒の腕には、紺線が二本。ピンクのブーティを履いているが、靴からは黒いリボンが伸び、足首までをぐるりと巻いて、最後には太もものところでリボン結びをして留めてある。  さて、もう二人のうちの一人は、マントルピースの前であぐらをかいている。褐色の肌をした男子生徒の腕には紺線が二本。茶色の髪をひっつめ頭にし、人懐こそうにこちらへ身を乗り出している。膝までズボンの裾をまくっているので、一見この部屋に似つかわしくない人間にも思えるが、彼もまた、ヒールの高い黄金のミュールを履いている。その靴はゴテゴテとした宝石やビーズで彩られ、光が当たるたびに煌めいた。  最後の一人は、部屋の隅にある二人掛け用の椅子にきちんと座り、優雅に本を読んでいる。薔薇ヶ咲やスミレに対して興味がないらしく、手元にあるゲーテの『色彩論』に集中している。七三に撫でつけられた前髪と、黒いフレームの眼鏡が彼の近寄りがたい雰囲気をいっそう引き立てている。冷徹な視線、整った顔立ち。雪のように白い肌は透き通るあまり、青白く不健康そうである。制服の腕には紺線が三本。制服でありながら、太ももまでを覆い隠す軍靴のようなロングブーツを履いているが、その靴もまたヒールの高さは七センチ以上である。
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