裏史実

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予想とは違う言葉に驚く弁慶。 動揺しつつも、都の治安が武士の台頭で悪くなり、それを嘆いた寺の者達で辻斬りのような事、自分は今日が初めてだった事を話す。 「なるほど。ならば、お前、俺と来い!」 「ふぇっ?」 思いもしない言葉に驚く弁慶。 しかし、そんなことは全く気にせずに、義経はどんどん話を進めていく。 「今都を荒らしているのは平家の奴らだ。 俺は、いずれそいつらを一掃する。 が、今すぐには出来ん。 一度東国へ行き、力をつけるまではな」 「なら、勝手にいけばいいでしょう! 私が行く必要など……」 「俺は命を狙われている。 が、どこをどう噂が広まったのか、俺は女のような美少年ということになっているらしい。 それだけなら、逃げやすくなって好都合なのだが、東国にまでこの噂が広がっていると、俺は義経と信じてもらえぬ可能性がある。 だからお前、今から義経として、俺の代わりをしろ」 自分の代わりをしろ。 つまり、自分の代わりに命を狙われろ。と、等しい意味。 そんな危険、請ける必要などなく、断るのが賢いのは童でもわかる事。 しかし、女人の身であり、寺でも厄介者扱いだった弁慶にとって、誰かに必要とされたのは初めてである。 なにより、自分を打ち負かした、男らしく、堂々とした義経に、胸のドキドキがおさまらないのも事実。 「分かりました。 この命、あなた様に捧げましょう」 「おう、では頼むぞ義経よ」 ~~~~~~~ その後、筋骨隆々とした側近の"弁慶"と、まるで女人のように美しい"義経"が京の都を再び訪れるのは、それから二十年ほど時が経ってからである。 義経の側に弁慶あり。 それほどまでに近い間柄だった二人。 それが、主従関係からだったのか、それを越える関係だったのかは定かではない。 ただ、兄の頼朝に嫌われ、遠く奥州は平泉の地での最期の時。 仁王立ちして果てたという弁慶。 それが、主従関係ではなく、自分が愛し、自分の運命を押し付けてしまった少女を逃がすためだとしたら、少女の淡い思いは成就したのかもしれない……。
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