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ときは平安。
京を流れる鴨川にかかる大きな橋。
五条大橋と後の世でいわれるこの橋は、都から鴨川東岸への重要な交通の要であった。
それゆえ、人の往来も多く、陽が昇るうちは、人の流れが途絶えることはない。
しかし、人工の灯りが灯る後の時代ならまだしも、陽が下り、夜もふけた刻限となれば、人の姿はなくなる。
それでも、人が通らぬわけではない。
例えば、都の警備を受け持つ検非違使。
例えば、都から逃れる夜逃げ人。
そんな彼らは、五条大橋にまつわる噂は知りつつも、噂は噂で、苦もなく橋を通行していく。
検非違使達は、噂の調査を行った事もあったが、遂にその実体は掴めず、時の権力者の怒りを買う始末。
そう、五条大橋には噂がある。
ーー夜な夜な、五条大橋に現れるもの有り。
この世のものとは思えぬ程の体躯を持つ僧。
薙刀を振り回し、橋を渡らんとする武士に勝負を挑み、勝ったあかつきには、武士の命とされる刀を奪うという。
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