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月明かりだけが辺りを照らす丑三つ時。
人気のない五条大橋を通るは、まるで女子のように美しい顔の美少年。
触れれば壊れてしまいそうな華奢な体躯に似合わず、その腰に引っ提げるは刀。
そう、彼もまた、武士であった。
白く、美しい指を器用に扱い、横笛を鳴らしながら橋を渡る少年。
すると、ちょうど真ん中まで渡ったところで、大きな岩が行く手を遮っているのに気がついた。
いや、岩ではない。
義経が近寄ると、自ら起き上がり、薙刀を構えた彼こそ、五条大橋の破壊僧である。
「我が名は、武蔵坊弁慶。
ここを無事に通りたければ、大人しく刀を差し出せ」
破壊僧弁慶も、現れたのがまだ年端もいかない少年と分かると、情けをかけたのか、大人しく刀を差し出せば命は助けると譲歩する。
しかし、この少年。
鞍馬の山奥で、烏天狗に鍛えられた強者にして、大の負けず嫌い。
「この刀は、我が家に伝わる大事な刀。渡すわけには参らぬ」
「ならば、引き返すがよい」
「それは出来ぬ!
私はどうしても橋を渡りたいのだ!」
弁慶の情けも、もはやこれまで。
元来、暴れものたる彼は、薙刀の切っ先を義経に向ける。
「ならば、その刀を力ずくでいただこう。
その後、通るがよい。
……動けたならな」
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