史実

4/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
~~~~~~~ 月明かりだけが辺りを照らす丑三つ時。 人気のない五条大橋を通るは、まるで女子のように美しい顔の美少年。 触れれば壊れてしまいそうな華奢な体躯に似合わず、その腰に引っ提げるは刀。 そう、彼もまた、武士であった。 白く、美しい指を器用に扱い、横笛を鳴らしながら橋を渡る少年。 すると、ちょうど真ん中まで渡ったところで、大きな岩が行く手を遮っているのに気がついた。 いや、岩ではない。 義経が近寄ると、自ら起き上がり、薙刀を構えた彼こそ、五条大橋の破壊僧である。 「我が名は、武蔵坊弁慶。 ここを無事に通りたければ、大人しく刀を差し出せ」 破壊僧弁慶も、現れたのがまだ年端もいかない少年と分かると、情けをかけたのか、大人しく刀を差し出せば命は助けると譲歩する。 しかし、この少年。 鞍馬の山奥で、烏天狗に鍛えられた強者にして、大の負けず嫌い。 「この刀は、我が家に伝わる大事な刀。渡すわけには参らぬ」 「ならば、引き返すがよい」 「それは出来ぬ! 私はどうしても橋を渡りたいのだ!」 弁慶の情けも、もはやこれまで。 元来、暴れものたる彼は、薙刀の切っ先を義経に向ける。 「ならば、その刀を力ずくでいただこう。 その後、通るがよい。 ……動けたならな」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!