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ゆえに、義経は五条大橋を進む。
一歩、また一歩。
動く度に軋む橋の上を、注意深く進む。
橋の中程まできた時、対岸に小さな人影があるのが見えた。
一目で分かるのは、義経とは正反対の、華奢な体つき。
そして、童とまではいかないが、一般的な女子よりも低い背丈。
噂に聞く修羅にしては、拍子抜け。
おそらく、迷い子か何かの類い。
僅かな可能性として、人を惑わす妖か。
腰の刀の鞘に手をかけ、いつでも抜刀出来るようにしながら歩き、橋をほとんど渡り終えた頃、義経はようやく人影の全貌を見た。
華奢な体つきは当たり前で、山伏の格好をしてはいるものの、その顔は明らかに女子のもの。
それだけならば、美少年という可能性もあるが、僅かな膨らみをみせる胸元から、この存在が女子であることを確信させる。
薙刀を構え、義経を威嚇しているようではあるが、その切っ先は震え、全くもって意味をなさない。
ーー妖にしては、気迫もない。
何の真似かは分からぬが、大した驚異ではない。
そう判断した義経は、鞘にかけた手を戻し、堂々とした態度で女子の横を通ろうとする。
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