11人が本棚に入れています
本棚に追加
「おつかれー」
生徒会室のドアをあけると、いつものように佐野君が座っていた。
「よかったらどうぞ。どっちがいい?」
差し出されたのはイチゴミルクとアセロラジュース。どっちも私の好物で、気遣いに少し感謝した。悩んだ上で、イチゴミルクの方をとる。甘いものが、欲しいなー。
「この前、言っといた方がよかった?」
しばらくの沈黙のあと、佐野君が言った
「どうだろう、わかんないなぁ」
言われていたら何か変わったのだろうか。言われていても、多分、
「言われていても変わんなかったよ」
だって私、
「あんまり傷ついていないから」
もっと泣きたくなるのかと思った。傷つくのかと思った。でも今、ああそうなんだ、としか思えない。
「きっと恋じゃなくて、ただの憧れだったんだよ」
だから、今こんな普通なんだ。
「憧れだとだめなの?」
他所を見ながら佐野君が言う。少し早口に。
「恋のきっかけはひとそれぞれじゃん。憧れだって恋に変わるよ。気持ちを否定しなくて、いいじゃん」
佐野君がこっちを向いてゆっくり笑う。
「まだ事態が飲み込めてないだけかも知れないし。泣かないからって恋じゃないわけじゃないよ」
と思うよ、と小さく呟く。勢いよく言ったあとに少し自信なさげに。そして
「あ、それとも憧れだと思った方が気持ちが楽だとか? それなら無理に恋とか思わない方がっ」
ちょっといつもより高い声で慌てたように付け足す。
その様子がなんだか可愛くて、おかしくて、ちょっと口元が緩んだ。
「ありがと」
私が笑ったから、佐野君が少し安心したような顔をする。片手に持ったままのアセロラに思い出したように口をつける。
「何も出来ないけど、愚痴ぐらいなら聞くからさー」
「ありがと。佐野君は、優しいね」
言うと、佐野君は一瞬眉をひそめてから
「それぐらいしかとりえないからねー」
と、けらけらと笑った。あの時みたいな笑い方だ、と思った。
最初のコメントを投稿しよう!