引き立て役だなんて思ってないよ

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「おつかれー」 生徒会室のドアをあけると、いつものように佐野君が座っていた。 「よかったらどうぞ。どっちがいい?」  差し出されたのはイチゴミルクとアセロラジュース。どっちも私の好物で、気遣いに少し感謝した。悩んだ上で、イチゴミルクの方をとる。甘いものが、欲しいなー。 「この前、言っといた方がよかった?」  しばらくの沈黙のあと、佐野君が言った 「どうだろう、わかんないなぁ」  言われていたら何か変わったのだろうか。言われていても、多分、 「言われていても変わんなかったよ」   だって私、 「あんまり傷ついていないから」  もっと泣きたくなるのかと思った。傷つくのかと思った。でも今、ああそうなんだ、としか思えない。 「きっと恋じゃなくて、ただの憧れだったんだよ」  だから、今こんな普通なんだ。 「憧れだとだめなの?」  他所を見ながら佐野君が言う。少し早口に。 「恋のきっかけはひとそれぞれじゃん。憧れだって恋に変わるよ。気持ちを否定しなくて、いいじゃん」  佐野君がこっちを向いてゆっくり笑う。 「まだ事態が飲み込めてないだけかも知れないし。泣かないからって恋じゃないわけじゃないよ」  と思うよ、と小さく呟く。勢いよく言ったあとに少し自信なさげに。そして 「あ、それとも憧れだと思った方が気持ちが楽だとか?  それなら無理に恋とか思わない方がっ」  ちょっといつもより高い声で慌てたように付け足す。  その様子がなんだか可愛くて、おかしくて、ちょっと口元が緩んだ。 「ありがと」  私が笑ったから、佐野君が少し安心したような顔をする。片手に持ったままのアセロラに思い出したように口をつける。 「何も出来ないけど、愚痴ぐらいなら聞くからさー」 「ありがと。佐野君は、優しいね」  言うと、佐野君は一瞬眉をひそめてから 「それぐらいしかとりえないからねー」  と、けらけらと笑った。あの時みたいな笑い方だ、と思った。
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