引き立て役だなんて思ってないよ

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「ん、内緒ね」  なんとか笑う。 「じゃあまた」  早口で告げる。堂本君は一瞬怪訝そうな顔をして、でもいつもみたいに笑った。  「うん、またねー」  ひらひらと片手をふる。  図書室のドアに手をかける。ドアについた窓越しに図書室の中が見える。  あの長い黒髪は、堂本君のカノジョだ。貸出カウンターに向かっている。難しそうな本を抱えて。私はあんな本読めない。  周りに人がいない。カノジョもまだこっちに来ない。  ドアから手を、離す。 「堂本君」 「んー?」  振り返る。どうしたの? と笑う。彼はいつも、笑ってる。 「好き、です」  笑顔がかたまった。 「ごめんなさい、言っても意味ないんだけど言いたくて、私さっき堂本君が言ってたみたいにただのミーハー心だけど、でも」  泣きそう、だ。ぎゅっと握った手に力を込める。 「でも、堂本君いつも笑ってて、いいなって。すごく、嬉しそうに笑うから、みてて幸せになれるから。ただの憧れ、なのかもしれないけど」  ゆっくり息を吐く。 「ごめんなさい、好き……」 「ごめんっ」  慌てた様に堂本君が立ち上がる。胸のシルバーがはねた。 「ごめん、さっきのは別にそういう意味じゃなくて。でも、ごめん。白井さんのこと傷つけるつもりはなかったんだけど」  近づいて、必死に彼が言う。  耐えられなくてあふれた涙を必死に拭いながら首を横に振る。堂本君が悪いんじゃない。 「ごめんなさいっ」 「ごめんね。ありがとう。嬉しい。でも」  顔をあげる。堂本君は真面目な顔をしていた。バスケしている時みたいな。 「でも、ごめん。俺は、カノジョが一番好きだから」 「うん……」 「ごめんね」  首を横に振る。カノジョがいるって知ってて告白したんだから、そんなに一生懸命ふってくれなくていいのに。 「また、ベランダに出ても、いい?」 「もちろん!」  できるだけ笑って言うと、少しだけ堂本君が安心したような顔をする。
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