引き立て役だなんて思ってないよ

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「うわっ!」 「きゃっ」  階段の踊り場で人にぶつかってしまった。学ランに鼻をぶつけた。 「いっ……」 「うわ、ごめんなさいっ」 「ごめんなさい、余所見してて」 「白井さん?」  声に顔をあげる。 「……佐野君」 「ごめんね、大丈夫?」  ずれた眼鏡を直しながらゆっくり微笑む。 「ごめん」 「……白井さん? どうかした?」 「え?」 「目、赤いけど」  佐野君は微笑んだまま首を傾げる。泣きそうになる。慌てて顔を下に向ける。 「……告白した」 「えっ?」 「……ふられたけど。あたりまえだけど。言わないまま、終わらせたくなかったから」  下を向いたまま早口で告げる。 「……そっか」  小さく佐野君が呟く。でもどこか温かい声で。 「がんばったね、おつかれさま」  二回、軽く頭を叩かれる。 「ん」  温かい手に涙がこみ上げる。 「ありがと」 「ううん。帰るの?」 「うん」 「帰れる?」 「うん」  右手の袖でぐっと目元を拭う。顔をあげる。 「大丈夫。平気」 「そっか」  佐野君がゆっくり微笑む。 「じゃあ、気をつけてね」 「ありがと」  微笑む。 「なんかあったら連絡してね」  佐野君は微笑んだまま言った。今は、何も細かく聞いてこないのがありがたい。そして、泣いている顔を見ない様に気を使ってくれていた。おしつけがましくない優しさ。  佐野君に背を向けたまま階段を、ゆっくりと降りて行く。ありがとう。
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