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沈黙。
佐野君は驚いたような顔をしたあと、ゆっくり息をはき、机に肘をついたまま頭を抱える様にした。
「さ、佐野君?」
思いがけない行動に慌てる。
「……期待、するからさ。やめようよ、そういうの」
「……期待?」
「だから、最初に確認したんじゃん。堂本の事が好きなんだよね? って」
「佐野君?」
「……どうでもいい子にわざわざそんな、協力するわけないじゃん。あの時、勘違いして好きになったら困るからって言ったけど、ごめん」
顔があがる。黒いフレーム越しにじっと見つめられる。
「やっぱり、好きだよ」
部屋の音が止まる。
廊下の人の声が響いている。
何かいわなくちゃと口をひらいて、何も言えずにまた閉じた。
「……ごめん、困るよね」
先に口を開いたのは、佐野君だった。
「でも、酷い言い方だけど。白井さんふられたんだから、本気だしてもいいよね?」
じっと見つめられる。真剣な目で。
しばらくの沈黙のあと、佐野君は下を向いて、ふっと笑う様に息を吐いた。
「冗談だよ」
「いいよ」
遮る様に言う。
「は?」
あっけにとられたような顔をして、佐野君が顔をあげる。
「期待して、本気だしなよ」
「白井さん?」
「佐野君は皆のために色々してるんだからもっと、図々しくてもいいよ」
「……からかってる?」
佐野君が眉をひそめる。
「違う」
首を横に振る。
「確かに私失恋したばっかりだし、自分でも気持ちの整理ついてないし、それなのにこんなこと言ったら軽いみたいだけど、それでも、やっぱり」
佐野君の目をとらえる。
「引き立て役だなんて、思っていない」
挑む様に見つめる。
「……ん、ありがと」
佐野君が笑う。あの時みたような笑い方じゃなくて、嬉しそうに。肩から力が抜けて、座っていた椅子に緩く背中を預ける。
「超嬉しい」
「それ」
「ん?」
「そうやって笑うの、見たかったの。佐野君はよく、哀しい顔をして笑うから」
あの時みたいに。
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