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佐野君は少し顔を赤くして、額に手をあてて一つ息を吐いた。
「……白井さん、それ、本当に勘違いするよ?」
「すれば良いって、言ったでしょ?」
今はまだはっきりした気持ちはわからないけど。これが恋なのかわからないけど。昨日の今日で恋だとするのは躊躇われるけど。優しいとこ、みんなのことちゃんと考えてるとこ、尊敬してる。
佐野君はしばらくじっと私の顔をみてから、緩く笑った。
「オッケー、じゃあ本気出すから。覚悟しといて」
「うん」
頷くと笑った。
「……お仕事、邪魔してごめん」
「あ、忘れてた」
佐野君は慌てて椅子に座り直す。
「そうだそうだ、これ出さないと」
言ってボールペンを持ち直す。
「ごめんね、私、帰るね」
手伝おうかとも思ったけど、今の状態じゃ無理だ。
「うん、気をつけてね」
「ありがと。佐野君もがんばって」
早足で生徒会室をでて、後ろ手でドアを閉める。
やだ、今頃になってものすごくドキドキしてきた。私、なんてこと言ったんだろう。本気出すってどういうことだろう。
早足で逃げる様に生徒会室から離れる。
大体、あんな笑顔は反則だ。火照った頬を抑える。冷たい指先が心地よい。
取りあえず帰って試験勉強しなきゃ。なんとか、どうにか。深呼吸。
深呼吸したところで、鞄の中でケータイが鳴る。突然のことの少しびっくりした。気をつけてね、とだけ書かれた佐野君のメール。
ああ、もう……。どうしよう。本気になるって、何?
でも、頭をよぎるのはもうあの哀しい笑い方じゃなくて、さっきの嬉しそうな顔だった。超嬉しいっていう、あの顔。
もしかしたら、だけど。二カ月後のバレンタインは、はりきることになるかもしれないな。少し、思った。
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