光を知らない蛍のように。

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お酒を一杯飲んだ後のお風呂は最高に心地が良い。誰もいない露天風呂は自宅とは全く違ってそこには神秘があった。 頭上の星も、草花も、時折侵入してくる虫にさえ感動を覚えてしまう。自然の風景が都会での喧騒を忘れさせてくれる。 こうやってのんびりと過ごしたいモノだ。お茶でも飲んで働きたい時に働き、スペインみたくシエスタして一日を終える。そんな生活で充分に満足。 けれど、現代社会でそう生きるのは大変難しい。現状、自分も将来への不安から就職活動を行ったが上手くは行かなかった。 結果、一浪。卒業式にも参加せず、同年代からたった一人取り残された気分である。 だからこうやって現実逃避の為に一人旅をしている。バイトで資金を貯め、行き先とスケジュールを入念に組み立てたから今がある。 「……いい湯だ」 来て正解だった。小春さんなんていう可愛い女の子にも出逢えたし。連絡先でも交換してみたいものだ。 だが、厳しいかあの様子だと。脈が有る無し以前に、業務的な内容しか話さなさそうだ。仕事で忙しくて、こんな田舎だと気軽に会いに行く事も難しい。 恋の始まり、なんて妄想だったのか。 熱々のタオルを目に当ててぼんやりと休憩する。と、その時ガサッと近くにあった草むらが揺れた。一体なんだろうと眺めるとそこにいたのは一匹の猿。 噂に聞いたけど、本当に野生としているとは。これは良いお土産話ができたぞ。
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