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ふと通りかかった店の前で、ぴたりと足が止まる。
恐る恐る覗き込んだ先にあるシルバーの美しいフォルムに、あぁ似合いそうだなぁ、なんて口元が綻んだのが自分でも分かったけれど。
「お手伝い致しましょうか」
「へっ!?」
そっと掛けられた優しい声に顔を上げたら、優しい声に相応しい柔和な笑顔を浮かべたベテランぽい店員さんがいて。
「いや、あの……、その……」
「お探しではありませんでしたか?」
「いやっ、探すっていうか……その……」
値段の相場さえ分からない場所で足を止めてしまった自分の失態にオロオロしながらも、目が離せなかったのは多分、ソレを身につけた手を想像したせいだ。
『オレのだって言いたいから、指輪買いに行こう』
あの日の自分の言葉を勿論覚えているし、紛れもない本心だった。とはいえ、しがない学生の分際では買えるモノが限られてくる。
自分のものだと言いたくて贈るのだから、多少無理をしてでもちゃんとしたものを贈りたいとは思っているけれど。こんなにも丁寧に話しかけてくる店員さんがいるような店なら、さぞかし高いに違いない。そもそもが百貨店の中だ。過去の彼女達に付き合って一緒に来たときでさえ興味がなくて値段は見なかったし、後々面倒なことになりそうなことは避けるに限ると強請られても誤魔化していたのだ。
ウロウロオロオロと目を泳がせていたら、ふ、と微笑んだ店員さんが、お待ちくださいと残してごそごそと手元を探る。
再び顔を上げてくれるまでの間、そわそわしながら待っていたら
「──どうぞ、お持ちください」
「……これ?」
「弊社のパンフレットです」
「あ、でも……」
「比較する材料は、多い方がいいですから」
「……」
どうぞ、と優しく差し出されて、どうも、とモゴモゴしながら受け取る。
ペコリと頭を下げたら、ずっしりと重い小さな手提げ袋を持って足早にその場を立ち去った。
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