Act.2 変わってゆくということ

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「…………ただいまぁ……」 「おかえり」  心持ちこっそりドアを開けてこっそり囁いたら。  パタパタといつもと変わらずに走ってきてくれた司の姿にホッとしたものの、ほんの少し歪んだ口元に気付いてそっと溜め息を吐く。  靴を脱ぎながら、司の顔は見ないまま躊躇いがちに声をかけた。 「あの、司……」 「──ごはん、出来てるから。……先に、食べよう?」  くしゃ、と笑う気配。  ね、とダメ押されて、うん、とモゴモゴ頷いた。 「……ごめん、ね」  小さく呟いた声にふるふると首を横に振った司が、くしゅっと笑う。 「食べよう。……今日も、お疲れ様」 「……ん」  オレを心配する声に労られて、ホッとするよりも苦しくなる。  だけどこれ以上ここで話をしようにも、司の全身からそうはしたくないという雰囲気が醸し出されていて。疲れているのも相まって、大人しく司の後についてリビングへ。 「今日は暑かったから、冷たいおかずにしてみた」 「ありがと」  いつものように屈託ない声で紡いだくせに、しょんぼりした目を隠せていない司が、食べて食べてと声だけではしゃいでみせる。  うん、と頷いて箸を取って。  いただきます、の声が揃ったのが今の救いだった。  *****  いつも通りを言い聞かせてたはずなのに、颯真のほんの少し後ろめたそうな顔を見た途端に取り繕えなくなった。  それなのに、何かを話そうとしてくれた颯真を、わざわざ遮ってまでいつも通りを装ってご飯を先にと促したのは、颯真の顔がほんの少しシャープになったというか、やつれたというのか──とにかくご飯を食べてもらわなきゃと直感的に思ったのだ。  オレだって人のことをとやかく言える体格じゃないけど、それでもやっぱり颯真と過ごすようになってから、食べることがいかに大切かを知ったから。  颯真を責める気持ちは全くない。──勿論、何を隠しているのと聞きたい気持ちは山々だけれど。  だけど別に喧嘩がしたい訳じゃないし、嘘を吐いている訳ではないんだろうと思っているし、黙ってバイトの掛け持ちを始めたのには、何か理由があるんだろうとも思っている。  そして、その理由にほんの少しだけ見当がついているから苦しいのだ。  いつもみたいに会話に溢れた晩ご飯にはならなかったけれど、噛みしめるみたいに颯真が呟いてくれた「美味しいね」の一言が、心にじわじわ染みて嬉しかった。  *****
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