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重たい空気のまま食事を終えて、重たい空気のまま2人で食器を片付ける。
「…………司」
「…………うん」
空気に耐えきれなくて受け取った茶碗を拭きながら切り出せば。
きゅっと水道の蛇口を捻って止めた司が、今にも泣き出しそうな声で返事をするから。
「……ごめん、あの」
えぇと、と何から話そうかと混乱しながら謝れば。
「ごめん」
「……ぇ?」
唇を噛んだ司に、逆に謝られてさらに混乱する。
「ぇと……? あの……なんで司が謝んの?」
ぎゅっと目を閉じて涙を堪えているらしい司の姿にわたわたと慌てて紡げば、ぎゅっと手にしたスポンジを握りしめた司の手の隙間から泡がボタボタ落ちる。
──まるで涙の代わりみたいなそれに、オロオロと司の目に手を伸ばしかけたら。
「……バイト」
「っ……うん?」
「掛け持ちしてんの?」
「…………うん」
「やっぱり……。……──ごめんね」
「っぃや、だから。そこでなんで司が謝んの?」
司が謝る必要ないでしょ、と苦く笑えば。
ふるふると首を横に振った司が、声を絞り出した。
「オレ、全然なんも考えてなかったから」
「何もって?」
「……オレ、当たり前みたいに冷蔵庫の中身とか使ってたし。……お米とかも」
「? 司?」
「お風呂も普通に借りてたし」
「ちょっと待って。何の話?」
深刻な顔で声を絞り出す司を慌てて遮れば、ぇ? と戸惑った顔をして
「お金、足りなくなっちゃったんでしょ? 食費とか、水道代とか……そういうのオレ、全然考えてなかったから……」
全然オレが想像してたのと違う台詞を吐くから、拍子抜けして頭を抱えてしゃがみ込む。
「そうま?」
ごめんね、と泣きそうな声が上から降ってきて、慌てて顔を上げた。
「違う違う!! ホントに違うから! ちょっと待ってホント泣かないで」
頼むから泣かないで、とオレまで一緒に泣きそうになりながら呟けば、ふぐ、と息をのんだ司がこくんと頷いてくれる。
「あの……とりあえず、向こう行こっか。座ろ」
「ん」
手に持ったままだった布巾をポイっとシンクに放り投げて司の手を引く。
とはいえ何て言おう、と頭を悩ませながら短い廊下を歩いて、今はこたつの装備を解いたテーブルの傍に2人で腰を落ち着ける。
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