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「あの……とりあえず、ごめんね。なんか嘘吐くみたいになっちゃって」
「……うん」
「新海さんから聞いてびっくりしたんじゃない?」
「…………うん」
こっくり頷いた司に、ホントにごめんね、ともう一度謝ってから言葉を探すけれど、上手く見つけられずに。
「あの……ホントに、その……お金に困ってる訳じゃないから」
「でも……」
「いや、ホントに。……正直さ。オレ、ホント自炊とかしてなくてさ。コンビニのご飯とか、カップ麺とか……あと学食とか。そんなんばっか食べててさ。今よりよっぽどむちゃくちゃな食生活だったし、なんだかんだ今の方が食費は安くなってるって言うか、実際全然変わってないって言うか……司の分って言ったって、司そんな思ってるほど食べてないから、全然」
「……それは」
「ホントはもっと食べて欲しいんだけどね」
「…………。今はその話じゃない」
旗色が悪くなってオロオロ視線を彷徨わせた司が、だけどむぃっと目線を豪快に逸らしたまま怒った口調で取り繕うのが、こんなときながらに可愛い。
とはいえ、ここで司を押し倒して有耶無耶にする訳にもいかないことは分かっているので、素直に話の続きを探してみる。
「で……何だっけ」
「だから! その……水道代とか、光熱費とか? 家賃、とか……」
「水道代はね、うち、2000円固定だから」
「え!? そんなのあるの!?」
「うん。なんかあるんだって」
「嘘じゃない?」
「じゃない」
これホント、と付け足したら、納得いかない顔のままで頷いた司が、だけどじゃあ、と不満顔で続ける。
「なんでバイト増やしたの?」
「それは……」
「それは?」
「……それは……」
「何?」
じっと見つめられてすぃーっと視線をずらそうとしたのに、それに気付いてむぅと膨れた司が、がしっとオレの顔の両側を手で押さえつけてきて失敗に終わった。
「颯真?」
「……」
精一杯の恐い顔を作ったらしい司の目に睨み付けられて、顔を押さえる手にもぎゅっと力が入る。
「……………………欲しいもの、があって……」
「欲しいもの?」
なんとかギリギリばれないところで嘘にもならない所を見つけて呟けば、キョトンとした顔の司があからさまにホッとするのにオレも安心する。
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