95人が本棚に入れています
本棚に追加
(──落ち着け)
行くな、だなんて。そんなことを言いたがってるなんて、バカバカしい。
こんな独占欲は今はいらないと胸の奥に閉じ込めて何でもない顔をして笑い返しながら、オレはいったい司をどうしたいんだよと心の中で叫ぶ。
独りにしておけなくて声をかけて、笑って欲しくて涙が乾くまで傍にいて、心の中にいるたった一人に勝手にヤキモキして抉った傷の痛みを今でも覚えているのに。
止まっていた時計をゆっくりゆっくり進めて、ようやく今に追いついて走り出そうとしてる──その思いを引きずり下ろしてでも強引に止めたいだなんて。
(ダメだ……)
章悟が絡むと、いつもこうだ。
もういないくせに、とんでもない存在感で司との絆を見せつけてくる。
(くそっ……)
もしかしたら。
指輪にこんなに拘ってるのは、章悟ですら辿り着けなかったところへ2人で辿り着いたんだと、他でもない章悟に見せつけたいだけなのかもしれない、なんて。
自分の情けなさを思い知らされて落ち込むしかない。
「……そうま?」
どしたの? と心配そうな顔した司に覗き込まれて、なんでもないと笑ってみせる。
「…………ちゃんとするよ、オレも」
「?」
「……そういうの……ホントに。ちゃんと考えなきゃだよね」
「……うん?」
キョトンとした顔をする司の頭をもう一度くしゃりと撫でて唇を噛む。
章悟に囚われているのは、司なんかじゃなくてオレの方だと。
そろそろオレが向き合わなきゃいけないんだと。
言い聞かせるみたいに噛みしめた想いを口には出さないまま、ぐいっと司を抱き寄せて、素直に腕の中に納まってくれる華奢な肩に顔を埋める。
「…………結婚しよって、言ったんだもんね」
「……そうま?」
「オレもちゃんとしなきゃ」
「そうま……」
心配そうな声で呼んだ司にぽんぽんと優しく背中を叩かれて、ぐっと奥歯を噛みしめていた。
最初のコメントを投稿しよう!