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「あんな顔して笑ってくれるの、オレだけの特権みたいに思ってたのに、違うんだって気付いて……オレじゃなくても司は笑えるんだって気付いたら恐くなった。……あんな顔……見たら誰でも司のこと好きになるに決まってるから……いつか誰かに盗られるって……」
不安で恐かったんだと呟いたら、ふぅー、と大袈裟な溜め息が聞こえて恐る恐る顔を上げたら、司は呆れ返ったみたいな顔で大袈裟に眉を八の字にしながらも、口元をヤレヤレというかのように歪めて笑っていた。
「ばっかだなぁ」
「…………」
「他の誰がオレのこと好きになったって、盗られたりしないよ」
「でもっ」
「──だってオレ自身は、颯真のことが好きなんだから」
「…………つかさ……」
「だいたい盗られるってなに。オレの意志はどこにいっちゃったの」
「ぁ……」
「オレは颯真のことが好きなんだよ? 盗られたりしないよ」
バカだなぁ、と笑った司が、わしわとオレの頭を撫でる。
「オレのこと信じてよ」
「……信じてるよ」
「じゃあなんで」
「分かんない…………分かんないけど…………オレじゃなくてもいいのかって、思っちゃったから……」
「……………………颯真ってなんか……時々めちゃくちゃ不器用っていうか……なんていうか……」
「……」
呆れたのか困ってるのか、ふぅと大きな溜め息を吐いた司がそっと笑う。
「颯真がいてくれたから他の人とも笑えるようになったんだよ」
「……」
「颯真がずっと、傍にいてくれるって分かってるから、笑えるんだよ」
「……司……」
「章悟がいなくなって、全部どうでもよくなって……何にもない毎日だった。……生きてんのか死んでんのかも分かんなかったオレを、ずっと支えてくれたんだよ、颯真が」
ふふ、と照れ臭そうな色を浮かべた目が、ほのかに潤む。
「颯真じゃなくて良いなんて、言わないでよ。オレはちゃんと颯真のことが好きなんだから」
「司……」
「──だからずっと心配してた。…………なにしてたのずっと」
潤んでしまった自分の目を隠すみたいにして目を閉じた司が、照れ隠しみたいなノリでいきなり話の矛先をオレに変える。
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