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「っぇ!? 何、急に……」
「急にじゃないよ。ずっと心配してたんだってば。手もガサガサになってるし、ちょっと痩せたよね? そんなにバイトして、なにが欲しいの?」
ぎゅっと握られた手と、頬に添えられた手が温かい。
見つめてくる目も、優しく心配を伝えてくれる。
その優しさに溶かされたみたいに唇が緩んで、ぽろりと声が零れた。
「…………──指輪」
「……へ?」
「指輪、欲しくて頑張ってた」
「……ゆびわ?」
予想外だったのか、呆気にとられた顔をした司の左手を取る。
「ここに……はめて欲しくて」
「ぁ……」
オレが左の薬指を撫でたら、意味に気付いたらしい司が頬を紅く染める。
「オレのだって言いたくて、頑張ってた」
「そうま……」
「ごめんね。2人で暮らしてくこととか、全然考えてなくて。……ただ、オレのだって言いたくて頑張ってた。……独り善がりって分かってたんだけど……見栄って言うか、そういうのもあったと思うけど……オレが安心したくてやってた。……ごめんね」
「……」
ふるふると首を横に振った司が、ありがと、と小さく呟いてはにかんだ後に、でも、と笑う。
「もういいよ。そんな頑張んないでよ。指輪なんてなくてもオレ」
「嫌だ」
「ぇ?」
「オレがしてて欲しいから」
「そうま……」
「もうちょっとなんだ。だから後ちょっと頑張らせて」
「……でも」
困った顔して言い淀む司にお願い、と畳み掛ける。
「もっとペースは落とすから。……その……司が盗られるって恐くなって、ちょっと無理なバイトの仕方してたから……それはもうしないから。……オレのだって、誰が見てる分かるようにしたいんだ」
「…………不安だから?」
「……それもあるけど……オレのだって言いたい。……オレの我が儘だけど。……オレのだって言わせて」
お願い、ともう一度小さく呟いたら、またヤレヤレと唇の端を歪めてそっと笑った司が潤んだ目のまま頷いた。
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