Act.5 だから本当に君には敵わない

3/6
前へ
/40ページ
次へ
 そっとパンフレットを開いて見せてくれながらそんな風に提案した店員さんが、オレが最初に選んでいた指輪を見てからオレを見る。 「お相手の方は少し華奢な手をしておられるのでしょうか?」 「……そう、ですね?」 「……お客様の手は、どちらかと言えば大きめの、しっかりした手をしていらっしゃいますので、恐らくはリングの太さでしっくり来ないのだと思います。お相手の方に選ばれたリングは『弓張月』というシリーズで、全体的に少々細めのお作りになっています。……こちらの『皓月』というシリーズですと、全体的にしっかりとしたフォルムになって参りますのでお客様にもよくお似合いだと思いますよ」  立て板に水のセールストークを繰り広げる店員さんに、しどろもどろで頷きながら言われるままにはめてみる。  確かにさっきまで選んでいたものよりもしっくりと馴染んでくれることに気付いたら、さらに悩んでしまった。 「……やっぱり見るのとつけるのとじゃ全然違いますね」 「そうですね。やはり身につけると印象は変わると思います」 「…………そうですよね……」 「…………お相手の方と、もう一度おいでになりますか?」 「……」  心配そうな顔で見つめられて、一瞬迷う。  司が好奇の目で見られるようなことは、やっぱり避けたい。  人の多い場所で手を繋ぐのは、あまり気にしていない。人の多さに紛れるだろうし、みんな自分の楽しみを優先するだろうから注目されることも少ないと考えているからだ。  実際、そういう場ではあまり注目を集めることもなく、言い方はおかしいけれど無事に楽しい思い出に出来た。  けれど、こういう店に男2人はさすがに悪目立ちすぎる。 「………………一度、相談してみます」 「そうですね。やはり長く身につけて頂くものですので、お相手の方ともよく検討されてください」  にこりと愛想良く笑ってくれた店員さんが、大丈夫ですよと言葉を重ねてくれた。 「長く身につけるものです。じっくり時間をかけて選んでください。勿論、他のお店で見て頂いてもいいんです。最終的に当店を選んで頂ければそれは勿論とても嬉しいですが。お二人ともが気に入って身につけたいと思われることが一番大切です」  *****
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

96人が本棚に入れています
本棚に追加