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『ごめん、ちょっとバイトが忙しくて帰るの遅くなりそうなんだ』
申し訳なさそうなメッセージが飛んできたのは、金曜日の夜のこと。いつものように颯真の家を訪ねてきて、食事の用意をしていたところだった。
『大丈夫だよ。ご飯作って待ってるね』
がんばってね、と追加で送ったメッセージが既読にならなかった所を見ると、短い休憩の間にとにかく遅くなることだけでも伝えようとしてくれたのだろうと容易に想像できて、いつもながらの律儀さにほっこりと笑う。
週末に颯真の家に来るのは前から変わらないけど、少し前から最小限の手荷物だけで訪れるようになった。
『荷物……』
『ん?』
『毎回持ってくるの、面倒じゃない?』
『へ?』
『その……タンス、スペースまだ余ってるから……置いてったらどうかなって……。洗濯は、オレがやっとくし』
『……ぇと……それって、オレが全面的に甘えるだけになっちゃうけど、いいの?』
『いいよ』
真面目な顔して頷いた颯真に、じゃあよろしくと頭を下げた。素直に甘えたオレにホッとしたみたいに笑った颯真はくしゃっとした照れ臭そうな顔で笑った後で、『週末同棲ってこんな感じかな』なんて呟いてオレを真っ赤にさせたけど。颯真も同じくらい真っ赤になっていたから、なんだかお互い楽しくなって笑ってしまったのを覚えている。
だけど確かに、実際こうして荷物を持たずにやって来て晩ご飯を作って待ってるなんて、やっぱり同棲とか新婚生活とかそんな言葉が頭をよぎるから照れくさい。ましてや、つい最近のことのように思えてもう一ヶ月ほど前のことになるけれど、面と向かってプロポーズもされているから余計に。
そんなことをつらつらと思い出してキッチンで一人顔を熱くしたら、熱々の頬に手でパタパタと風を送って冷ましながら幸せに笑う。
「──よし、もうちょっと」
疲れて帰ってくるだろう颯真が少しでも元気になれるようにと、気合いを入れ直して食事の用意に戻った。
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