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「颯真、お風呂ありがと──ぁ」
シャワーで汗を流して颯真に借りっぱなしのジャージに着替えて部屋に戻ってきたら、颯真はベッドの上──しかも掛け布団の上でスヤスヤ寝息を立てていて。
電気も付けっぱなしだしお腹の上にスマホが転がってるから、きっとベッドの上でスマホで時間を潰してる間に寝落ちしてしまったのだろう。
(……やっぱり疲れてるんじゃん……)
哀しく唇を噛みながら、パチンと電気を消してやる。
暗い中で恐る恐る、探り探りで床に腰を下ろして溜め息を一つ。
(どうしたんだろ……)
濡れた髪の毛をタオルで拭きながら、暗さに慣れてきた目で颯真をじっと見つめた。
少し痩せたような──引き締まったような。顔つきが少し大人っぽくなったような、そんな気がする。
それに、手が。
オレに触れてくれる優しい手の平は、最近いつもガサガサに荒れているような気がするのだ。
にじにじとベッドににじり寄って、あごだけをベッドに載せる。
「どしたの、颯真」
聞いても返らない返事を待つことには慣れているけれど、決して好きではない。むしろあの頃を思い出してしまうから、苦手と言っていい。
不意打ちで零れそうになった涙は、奥歯を噛みしめてぎゅっと目を閉じることで堪える。
濡れたままの頭に載せていたタオルを目元まで引き下げたら、涙の余韻が引くまでじっとしていた。
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