雪布団

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 夕方に葬式屋がくる手はずだったが、昼頃から悪化した天候のせいでそちらに行けないという電話があった。明日の早朝に迎えに行くというので、この寒さなら腐ることもないだろうと頷いた。 その晩、私は雪絵の隣で眠った。彼女にかぶせた雪が溶けぬようにと窓は開け放ち、部屋と外の気温とを同じにした。厚着に厚着を重ねて、私がうつらうつらしていると、ゴォゴォという音に混ざって鐘が聴こえる。カァンッカァンッと鳴っているそれはだんだんと近づき、そうして私は気付くと、吹雪のなか葬式の列を歩いているのだ。鐘つき男を先頭に、棺桶持ちが二人。その後を私が続く。 私が急ぎ足になって棺桶に近づき、そっと耳を寄せた。 「ダメよ、あんた。ついてきちゃダメよ」 この葬式は雪絵のものだと私が立ち止まると、棺桶は吹雪の奥へと消えてしまった。 それは私の夢であった。しかし、私が朝になって目を覚ますと、雪布団をかぶっていた雪絵の死体がない。雪だけが溶けずに残っている。家中探し、警察に連絡して捜索が三日三晩と続いたが、雪絵の行方は依然として知れない。夢で見た景色は、雪絵が語って聞かせてくれた生まれ故郷に似ていた。平坦で、しかし四方を山に囲まれ、雪が降れば白くなる。 雪絵は拐かされたのだ、犯人は雪であろう。彼女も嬉々として誘拐されたに違いない、そう思っている。むしろその方が良かったのだ。つまらん墓石の下でもごもごされているよりは、毎年雪が積もれば再会できる。 私の死期も近い。私が死ぬ時も雪の日が良いが、雪にそこまでの執着もないので、どうだか分からん。しかし遺言には、私の灰は雪降る青森の山へまいてくれと書き残してある。雪絵もきっと、その方が喜ぶだろう。 終
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