の、ような香り

2/2
前へ
/14ページ
次へ
同期以外には絶対に現していなかった自分のプライベートを後藤に流した岡村にはどう落とし前つけてやろうか。お前が関わった企画商品だけは売り込むのやめてやろうか本当に。「いやだなぁ、先輩。俺のこと軽いやつと思わないでくださいよ」後藤には営業で鍛え上げた笑顔を向け、心の奥の奥では笑顔のままに岡村の胸元を掴んでは揺らす。そうして嶋田は話題を変え、香りの具体的捜索方法を提案した。 「先輩、多分その方は香水をつけているんですよね。それで、これは俺の経験なんですけど……」 香りのイメージと人物のイメージは大抵近いものがある。花のような香りならば、服装は女性らしく、森のような香りならば、活動的な女性。石鹸のような香りならば、大抵は若い未婚女性か結婚して家庭を持っている女性。お香のような香りならば、少し個性的な方かもしれない。後藤が恋した理由に意味がわからないと言ったものの、嶋田にも女性の香りドキリとした経験はあった。目で恋に落ちた後だが。 「それで、ですね。香りを当てもなく探すのではなく、その香りがしそうな人を目で見つけるんです」 「そうか、なるほどな!それなら彼女を見つけられそうだ!」 と、なると彼女はどういう人なんだろうか。多分何か専門的な職についていそうな気がする。インストラクターとかデザイナーとか。それに、髪は束ねていそうだ。黒髪で、腰くらいまでの長さ。背は高くもなく低くもない。服装はシンプルに黒のワンピースとか着てそうだな。持っているカバンは結構大きそうで、仕事で使うものをひとまとめにしてそうだ。表情は凛としていて、けれど穏やかな雰囲気を……。 うんうんと1人で想像を膨らませる後藤の姿が段々と変態に見えるのは気のせいではなかった。嶋田が目と鼻を一度こすると、そこにはやはり、ニヤついた後藤がいる。ふわりと白檀の香が鼻を通った。そういえば以前、出かける前には先祖に線香を上げているのだと聞いたことを思い出した。その香りは、まるで武士だな、という後藤に対する当時の印象までも引き連れてきた。 それも、上書きされた今、次にこの香りを感じた時には、変態だと思った記憶が呼び起こされるのだろう。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加