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目的の香りも人物も未だ見つからずにいる。夕陽はもうなくなりかけていて、今日はもう見つからないのだろう、そんな気持ちにさせる。
「もし、もし彼女を見つけたらどうするんですか?」
見つけることに専念していたが、想い人を見つけた時に、彼はどうするのだろう、嶋田はまったく想像がつかないでいたが、男らしく直球勝負で結婚を前提に、とか、お友達から、とか、軽くないことだけは分かっていた。
「どうすればいい?」
後藤は目と鼻を流れていく人々に向け、声だけ嶋田に寄せてくる。彼のやたらいい声は、社内外問わず人気なのだ。一部の得意先では後藤からの電話に出たいが為に争奪戦すら起こっているという噂もある。
「えー!それ、聞きますか?俺に」
「全くの他人になんて声をかけたらいいのか俺は分からん」
「先輩に告白されたら大抵の女性は先輩のこと好きになっちゃうと思うんですよね。だから思ったことを伝えるだけでいい気がします」
「お前は……適当なこと言うなよ」
「適当じゃないですよ。先輩に好きって言われたら好きになっちゃうでしょう。あ、いや、もちろん女性の皆さんですけど、いや、まぁ、男性でもそういう方がいるかもですけど、えっと、はい、まぁ、お付き合いに至るかまでは分かりませんが」
「なんだそれは。じゃあ、お前ならなんて声かけるんだ?」
「俺ですか?うーん、そうですね……」
なかなか返答を返さない嶋田に後藤が目を向けると、嶋田は駅通りの方から歩いて来る女性を見つめていた。ブロンドの波打つ髪は異国の血が流れているのだと教えてくれた。彼女の来ている青いワンピースの裾が歩くたびにふわりと揺れる。なるほど、確かにあれは追ってしまう。後藤も同じように彼女を見つめ、目の前を通り過ぎるのを待った。
「あの外国人、すごい美人ですよね。うーん、そうですね、俺なら…」
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