捜索

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とにかく、もう一度最初から話してもらうしかない。後藤を促すように店の方を指差し、そちらへ向かおうとするが、真逆の力が作用し、嶋田は進むことができないでいた。 「だめだ、ここにいないとダメなんだ!」 「ちょ、何なんですか、先輩!ここに居たら邪魔になるでしょう!ちょ、腕を、腕を引っ張らないでください!スーツ破れる!」 「ここなんだ!彼女が通るのは間違いなく、この時間のこの場所なんだ」 「なんで分かるんですか、さっき顔も名前も年齢も分からないって言ってたじゃないですか。うわ、ちょ、先輩、イタイイタイイタイ!」 嶋田の腕は筋の通った男らしい手に掴まれている。自分が握力測定器ならば、もう限界振り幅を超えて壊れているに違いない。見た目を裏切らない後藤の力強さを身をもって体感できたのはある意味光栄だが、数少ないスーツにしっかりと握り締められた跡が残ったのは何とも言えない。心なしか圧縮されて縮んだのではないか。それはすごい。今度同期にこのスーツを見せて、後藤先輩の握力について語り合おう。痛いが何だか嬉しい。なんだ俺は変態か。ちがうちがう!と、頭を巡った思惑を振り払うと、また一層嶋田のヘアスタイルは崩れていった。
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