1.実里のお願い

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「ふー……」 階段は、確かに段数は多いが、嫌になるほど長くは無かった。 「……ここが、雛野神社」 鳥居の奥に、一年中葉がつかないという巨大な御神木が見えた。 「はい。今はわたしの母が管理してるんですよ」 鳥居をくぐって、荷物を持ったまま、赤髪の子に着いていく。 「ということは、君はもしかして、あの雛野 日和のお孫さん?」 「はい、そうですよ。……あ、そういえば自己紹介してませんでしたっ」 赤髪の子はしまったという表情をした後、すぐに自己紹介してきた。 「雛野 実里(ひなの みのり)と申します。この神社の巫女をやっています。実里と呼んでください」 「雛野さんね」 ……ん? 今、何か違和感を感じたような。 「あ、もしよろしければ、実里、と呼び捨てで呼んでもらえませんか? ……わたし、実は名字で呼ばれるのは、ちょっと緊張するんです」 祖母がすごい人だから、彼女はその名字に少しプレッシャーを感じている……ということなんだろうか。 「わかった、実里」 「…………えへへ」 名前呼びすると、実里は想像以上に嬉しそうな顔をした。とても人懐こい笑顔に、子犬のような印象を受けた。 「俺は大空 光。光でいいよ」 「おおぞら ひかる……光さん、ですね。良いお名前です!」 「ありがとう……ん?」 名前の話で、さっきの違和感に気付いた。実里は…… 「……ねえ、一つ気になることが。実里って、祖母の代からずっと『雛野さん』なの?」 「はい。祖父も父も、誇りある名字だと言って、結婚したときに自ら望んで雛野の姓になることを選んだそうです」 「なるほど、そうなんだね」 全世界を救った英雄の名字であり、この大切な町の名前でもある雛野という名字は、それだけの価値があるということなのだろう。
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