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小村はそれから一ヶ月も走り回り、何とかして未練を晴らそうと試みていた。
しかし、成果は挙がらず、彼の心身は次第に弱っていった。
「もう、いいんです」
「よくなんかないでしょう」
一ヶ月も経てば、遺族も事の顛末に気がついていた。
初めの内は激昂していた遺族も、敵の強大さを知り泣き寝入りもやむ無しと考えるようになっていた。
「この国では、もうダメなんですよね……。私の夫は、医療ミスではなくただの、病死なんです」
腐敗しきった内情に、小村は吐き気を催す。
あの弁護士からも音沙汰がなく、たまに進捗を聞こうにも電話は繋がらない。
「クソァッ!どいつもこいつも、人をなんだと思っていやがる!」
その日の夜の小村は、いつも以上に荒れていた。
強くもないのに酒を浴びるように飲み、今にも倒れそうな調子で、怒鳴りながら歩いていた。
「……あぁ?どこだぁここは」
気が付くと、真夜中の公園のベンチにいた。
どういう経路で辿り着いたかは分からないが、少しは意識がハッキリとし始めている。
時刻は、三時前といったところか。
明日の仕事が休みであったのは幸運だろう。
「……クソッ!どうにかしなきゃ……どうにか……!」
酔った頭でこれからを考えていると、突然背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
苦悩する彼の周りから、男性の薄気味悪い笑い声が響く。
「な、なんだ!誰だ!」
辺りを見渡してみても、誰も、何も居ない。
だが、声は響き続けている。
「酒が入ってるからってそんな……違う、これは違う!」
ふと、小村は気が付いた。
笑い声は、少しずつ小さくなっている。
微かなものになりつつある笑い声は、聞こえ初めてから10分ほどで完全に聞こえなくなった。
「な、なんだったんだ今のは……」
酔いなどすっかり覚めた小村は、公園から逃げるように去っていった。
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