藪に集う怨嗟

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「ショック症状が治まりません!」 「クソッ!原因はなんだ!?」 とある大病院のICUにて、それは起こった。 患者の一人が突然強いショック症状に襲われたのだ。 「心停止しました……!」 「ダメだ!戻って来い!死ぬな!」 なんとか呼び戻そうと、何人もの医師、看護師が駆けつける。 いくつもの薬剤の名が飛び交い、多種多様な器具が持ち出される。 しかし、懸命な治療も虚しく、患者は最後まで苦しみもがき、死んでいった。 「本当に……お世話になりました……」 治療にあたっていた小村昇太郎は、患者の妻の顔を見る事が出来なかった。 彼は、確かに力を尽くしていた。 経験も浅い若者だが、あの場での処置は全て、適切であった。 彼が罪の意識を感じる必要は無い、原因は別のところにあるのだから。 「大変……申し訳ございませんでした……!」 彼は、患者が死亡して数時間で、真実を知った。 ただただ頭を下げ、遺族を見送ることしか出来ない、そんな自身に怒りが湧いて来る。 「いやぁ、悪いな。代わりに頭を下げてもらって」 「クッ……御堂……!」 遺族が去ってから現れた、いかにも軽薄そうなこの男が、今回の事件の発端だ。 「二日酔いだったんだし、クスリの一つや二つくらい間違えたってしょうがねぇよな。ま、つぎは死なせないようにしようぜ」 「ふざけるな!」 御堂は、患者に使う薬剤の種類を間違えた。 その結果、重篤なショック症状を起こし、あまりにも酷い死に様で終わらせることになってしまったのだ。 「……胸倉掴むのはいいけどよぉ、あんまり調子に乗るとどうなるか分かるよなぁ?」 「ぐっ……この、ゲス野郎……!」 小村は、本来であればこの事実をいつでも告発できる立場だ。 彼に限らず、真相を知っているものであれば誰でも出来る。 「まぁそう怖い顔すんなって、次は殺さないからさっ!」 小村の手を振り払い、彼は大笑いしながら立ち去った。 彼は、この病院の院長の甥に当たる人物だ。 訴えようとすれば当然院内での扱いは悲惨なものとなり、訴えたところでその話は院長、及び繋がりのある人物によって揉み消される。 警察、政治家、マスコミ、弁護士、果ては暴力団幹部、人脈というのは時に、憲法の上にすら立ちうる強大な力となるのだ。
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