1 3つの特徴

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 この映画の原作小説には3つの特徴があります。 (1) 懐古趣味的な物語を可能とするSF設定 ……未来に中世社会を再現するような、設定がなされています。それは、特殊な力場による発射物・ビーム兵器への制約、人工知能の反乱からくる電子頭脳への使用制限や、ギルド(宇宙航行協会)による各惑星の文明への干渉などです。  これは、その後の日本アニメ『宇宙戦艦ヤマト』において、戦艦大和を宇宙戦艦にすることを求めた遊星爆弾による地球の焦土化や、『機動戦士ガンダム』において巨大ロボットによるチャンバラを可能にした、ミノフスキー粒子によるレーダーの無効化に先立つものです。  これによるミスマッチ感は、あたかも恋愛アニメにおけるギャップ萌えのように(笑)、新鮮な知的刺激を与えてくれます。 (2) 現実世界との関わり ……物語には、香料(スパイス)・メランジという重要物資が登場します。  これは、砂漠の惑星アラキスでしかとれない薬物で、人間の寿命を延ばし、精神的能力を高め、さらには宇宙航行に必須の物質です。  主人公は、その生産を破壊するとの威嚇により、ギルドによる皇帝を通じた間接支配を打破しますが、その後に同様の構図で石油ショックが起きました。  薬物で人間の能力を向上させるという発想は、ベトナム戦争における兵士の薬物禍などに触発されたのではないか、という解説も読んだ記憶があります。  ギルドの他にも、ファウフレルヒェス(→ヒエラルキー)、モアディブ(→マフディー)など、世界史で習った西欧中世やイスラム圏の用語が出てきます。  他方で、皇帝と諸侯達の間には核兵器による恐怖の均衡があり、冷戦後のテロとの戦いを思わせる暗殺者戦争も行われています。  歌は世につれ、世は歌につれ、物語もまた然り……という感じでしょうか。 (3) 文明論的な設定 ……まず題材(モチーフ)というか、素材として、科学・技術、物的資源、経済・社会活動、人的資源、制度・政策、そして自然・社会環境といった文明要素の全てが、西洋からも、東洋からも、過去からも、未来からも、良いものからも、悪いものからも集められ、相互の関連性と共に描かれています。  主題(テーマ)についても同様で、『人類は超空間航法を開発し、星間帝国を建設できた。しかし人工知能や電算組織は禁止され、代わりに人間自身の資質を向上させる技術はあるが、限られたものである。そんな社会はどうなり、どうなってゆくべきか?』という、大きなものだと思います。  『砂の惑星』はこれにより、現在の未来予測とは異質だが魅力的な、人類の『もうひとつの未来』を描き出し、文明のあり方を考えさせる作品となっています。
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