7人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「ごめんな。皆に手伝わせて」
暗い顔をした晴彦が僕たちに向かって頭を下げる。
「気にすんなよ。困ってる時はお互い様だろ」
秀樹が明るい声を出して晴彦の肩を軽くたたく。
「そうだよ。むしろ、私達にも手伝わせてよ」
長い髪を一本縛りでまとめているのは由紀だ。
「手伝わせてくれて感謝しているよ」
ぶっきらぼうに歩美が言うが本音だろう。
「皆、お前ほどじゃないかもしれないけど、気持ちは一緒なんだよ」
僕も同調して晴彦に声を掛ける。
「高野。それに皆ありがとう」
瞳に涙を潤ませながら晴彦が頭を下げる。僕たちは弱弱しくだが笑って答える。僕たちは高校生の時同じ部活だった。文芸部で部員は僕たち六人しかいなかったけれど、とても仲が良かった。
高校を卒業して就職や進学で進路は別々になってしまったけれど、僕たちは今でも連絡を取りあい数か月に一度は会うような友達関係を続けていた。
高校を卒業して二年。一番驚いたのは当時部長だった晴彦と引っ込み事案であんまり目立つことが好きじゃなかった沙織が恋人同士になった事だった。もともと高校の頃から二人は仲が良かったし、早く付き合ってしまえばいいのにと思っていた僕たちは祝福した。
皆に祝福されて恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、はにかんでいた沙織の顔を僕はいまだに覚えている。
そんな沙織が自殺したと聞いた時は全員が耳を疑った。一人暮らしをしていたアパートの一室で首を吊っていたらしい。第一発見者は恋人だった晴彦。遺書もなく自殺の理由は分からなかった。
葬儀で見た沙織の両親は目に見えて落ち込んでいた。おじさんは気を張り詰めていたのかしっかりして見えたが、おばさんはずっと瞳に涙をためていた。
精神的に落ち込んでいて所要に追われている両親に変わって自室の整理を頼まれたのが恋人である晴彦だった。初めは一人で片付けるつもりでいたが、一人で沙織の部屋にいると思い出が蘇ってきて動けなくなってしまったらしく。友達の僕たちが呼ばれたということだ。
最初のコメントを投稿しよう!