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 沙織の部屋は綺麗に片付いていて物はそれほど多くはなかった。私物は小さなものが何点かあったのと小さな本棚に収められていた本がある程度だった。さすがに女の子だったので服はクローゼットに一杯に入っていた。 「あの子は晴彦と付き合い始めてから特におしゃれに興味を持ち始めたからね」  歩美が懐かしがるように呟く。 「化粧っ気もあんまりない子だったけど、可愛く見える化粧の仕方を教えてほしいと言われた時は思わず涙ぐんじゃったよ。沙織は元がいいから化粧映えもしたしね」  由紀が同意しながら洋服を畳んでいく。 「晴彦に可愛く見られたいと思ってたんだよ」 「男冥利につきるなー」  秀樹が合わせるように言う。 「そうだね。沙織は本当に素敵な人だったよ」  晴彦の言葉にしんと部屋の中に静寂が落ちる。もくもくと片付けを進める。 「あ」  歩美がふと声を上げた。 「どうかしたのか?」 「これ見て懐かしくない!」    本棚から引っ張り出したのは高校の卒業アルバムだった。歩美が部屋の中心にアルバムを持ってくる。皆がぞろぞろと集まる。 「あー。懐かしいね。ほら、中村先生がいるよ」 「文芸部でお世話になったよね」 「でも中ちゃん、部室で寝てばっかりだったからな」 「顧問引き受けてくれただけでもありがたいでしょ。僕たちの小説読んで感想くれたりもしたし」  歩美、由紀、秀樹に僕が口々に言う。パラパラとアルバムをめくっていくと懐かしい写真がたくさん出てくる。運動会に修学旅行、それに部誌を発行した文化祭。そのどれもが懐かしく、写真の中で僕たちはいつも笑っていた。  歩美や由紀に挟まれる形で写っている沙織ははにかんだ笑顔で幸せそうに笑っていた。
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