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腰のあたりで、何か動いた。
「なんだ?」
画面に顔を寄せると、女はぐるりと腕を回しているようだ。右手を腰の後ろに持って行って、左側からすっと出す。そして視線で確かめることもせずに後ろ手で消しゴムを掴みポケットにしまった。
――手が、長いのか。
まるで手品でも見せつけられたかのような鮮やかなテクニックに、少しの間俺は目を奪われてしまう。そういえば以前、同僚が手の長い女の幽霊の噂話をしていたことを思い出す。
なんでもそいつは憑りつく相手を求めて、人間の恰好をして真夜中の街を彷徨っているのだという。
「まさかな……。あれ、こいつどこいくんだ?」
女は万引きしたことを特に気にする様子もなく、そのまま飲料コーナーのほうに向かっていた。
「普通、万引きしたらさっさと店を出るだろ。どうすっかな」
とられたと言っても消しゴムひとつである。万引きとなると警察を呼ばなければならず、いろいろとめんどくさい。
まてよ、あの女の弱みを握れば何か良い展開に持ち込めるかもしれない。そう改めて女の映った画像をのぞき込む。少なくとも、後ろ姿は完璧好み、イイ女だ。
不意に下心が湧き出てきて、俺は椅子の背もたれにかけた制服をはおり店に出た。
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