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「すいません、ちょっと」
早足に飲料コーナーに向かうと、まだあの女がいた。後ろ姿に声をかけると、女がゆっくりと振り返った。
「なんでしょうか?」
大きな瞳が、じっと俺を見つめ返す。涼しげに響くやわらかな声がよかった。想像以上の上玉で、ニヤけそうになるのをこらえてまじめな顔で言った。
「消しゴム、ポケットにいれましたよね」
「はい、しまいました」
「お話があるんで、奥まで来てもらえます?」
こくんと頷いた女に悪びれた素振りはない。
それどころか、やんわりと微笑んでいた。
スタッフルームの椅子に腰かけた女が周りを見渡している。黒髪が風になびくカーテンのように揺れた。
「困るんですよね、万引きとか」
「それは申し訳ありませんでした。ふじわら、さん」
ポケットから先ほどの消しゴムを取り出すと、女は俺の名札をのぞき込んでぺこりと頭を下げた。
俺はどうにもその仕草に面食らってしまい、二の句がつげなくなってしまう。
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